米国ロースクール留学準備

米国ロースクール入学について

米国ロースクール留学ガイド:
国際関係の仕事を目指す法科大学院在学生および修了生のために

グローバル化が進む中、法律業務においても企業取引を中心にグローバル関連の業務が急増しています。国際取引分野は、弁護士にとり、将来、拡大の可能性の大きい有望な業務の一つと言えるでしょう。一方、我が国の法曹教育システムでは、司法試験偏重のため急速に進化し続けるグローバル人材の育成が困難な状態が続いてきました。

そこで、国際取引の比重の大きい大手法律事務所や大手企業法務部門は、実務経験を経た若手人材を海外のロースクールに留学させてきました。法科大学院教育でも将来、グローバル人材の育成に力を入れるようになってくるとは思いますが、国際分野で活躍しようと考える法科大学院生にとり海外ロースクールへの留学経験は、プロフェッショナルとしての将来のキャリア形成に欠かせないものでしょう。

国際取引では、アジア関連の取引以外では日本法のプレゼンスは小さく、金融取引を含む重要な企業取引の多くが、我が国と法体系の異なる判例法の英米法を準拠法とするものが多く、法技術も英米系法律事務所の優位が続いているのが現実で、海外留学を通じて直接能力を獲得するのが最も効率的です。また、契約作成や契約交渉で実務レベルの英語力を身に着け国際取引を行うには海外留学で現地の環境に身を置くのが最も効果的でしょう。現実に4大事務所のパートナーの実に約8割が米国を中心とする海外留学経験を持っていることがその証拠ではないでしょうか。

現在では、グローバル化が進み若い人たちが進み米国、英国、独、仏はもとより、中国、シンガポールなどアジアなど海外のロースクールに進むことも珍しくなくなりました。ただ、依然、米国の世界的地位、金融市場、密接な経済関係により我が国企業にとり国際業務で汎用性が最も高く、法曹資格の取得の容易さもある米国ロースクールは、日本人法曹の留学先して魅力的であり、今後も海外留学の主流であり続けるでしょう。そこで、ジュリナビでは、まず米国ロースクール入学について情報を提供します。但し、以下の情報はあくまで一般的なものであり、必ずしも正確であり、また、最新であることは保証できませんので、留学選定時には各自の責任において正確かつ最新の情報を得て判断するようにしてください。

米国ロースクール入学に向けて基礎情報の入手方法

まず、米国ロースクール留学を考えるに最初の基本情報の入手先としては、「日米教育委員会」の以下のサイトの情報が役立ちます。

►日米教育委員会「アメリカ留学の基礎知識(法科大学院)」

なお、米国留学準備にあたっては米国ロースクール留学・Bar Examination受験の経験のある先輩達(特に、直近に留学した人たちが最新の情報を持っている)から積極的に情報を得ることも重要です。また、日本国内で出回っている情報は必ずしも現在の状況を反映していませんから、米国の関連サイトから直接情報を入手すべきです。

米国ロースクールへの留学を志すのですから、米国の法制度や法律情報一般について理解を深めておくことが大切です。大陸法の教育を受けた人達に極めてわかりやすく解説されているのは、E. Allan Farnswoth 著の”An Introduction to the Legal System of the United States”(Oxford University Press2010) です。日本で出版されている日本語の解説書よりわかりやすいでしょう。勿論、英語で書かれていますが、米国ロースクールに留学しようとするのであればこれを読むべきです。

米国ロースクールでどういうコースを選択すべきか?

米国ロースクールに正式に入学するのであれば、他のアメリカ人と同様にJ.D. (Juris Doctor)コースで3年間学ぶことになります。最近では、J.D.コースに進む日本人も少なからずいますが、アメリカ人の学生と同等な語学力が要求されますので、現実的には帰国子女や高校までに留学経験がありネイティヴレベルの英語力のある人たちに限られるでしょう。

従い、日本人留学生の多くはロースクール併設のLL.M.という、日本でいう修士課程に進んでいます。LL.M.は本来専門分野をJ.D.卒業生が学ぶところですが、諸外国からの留学生(学者、裁判官、検察官や実務家)の多くの受け入れ先にもなっています。ちなみにアメリカ人にとりLL.M.は、就職の際ほとんどプラス要因にはならないので、税法など特別の課題を研究するための限られた範囲の人たちしか来ませんでした。ただ、昨今、米国の弁護士就職事情は厳しくなってきており、各ロースクールが海外留学生向けでない特色のあるLL.M.プログラムを提供し始めていますので、これらと間違わないようにしなければなりません。現実には、日本からの留学生の受け入れに積極的なロースクールは全米で約20校程度です。

LL.M.では日本ですでに受けた法学教育がカウントされ1年(事実上は9月から始まるfall semesterと1月から始まるspring semesterの約9か月)で学位が取得できます。但し、あくまで1年間という短い期間で米国法を学ぶのですから限界はあります。しかし、LL.M.を取得することで判例法の考え方、基本法、米国のリーガルシステムの全般を理解することができるでしょう。

また、ロースクール留学中には、現地のロースクール生や教授達と知り合え、また、海外からの留学生とのコミュニケーションもできる機会も豊富です。法科大学院在学中でもLL.M.プログラムに行くことは、たいていの場合には可能です。しかし、法律事務所や企業などで実務経験をある程度積んで(3~5年くらい)から留学すれば、より明確な目的意識をもってアメリカ法を学ぶことができ、その経験は必ずキャリア形成に役立ちますし、更に、受け入れ側のロースクールも入学判定で実務経験を積極的に評価してくれます。

更に、LL.M.取得のメリットは、ニューヨーク州とカリフォルニア州では外国資格で州の法曹資格を取得できる可能性があることです。5月にLL.M.取得した直後の夏に受験すれば、ちょうど丸一年で州の弁護士資格を取得できることになります。米国では弁護士資格は州ごとに与えられるのでそれぞれの州で資格要件が異なります。少なくとも現在のところこの2州が外国資格の受験に寛容なところです。では、日本人が係る実務でニューヨーク州資格かカリフォルニア州資格かどちらの汎用性が高いかということになると、国際取引で優位な前者ということになります。

勿論、カリフォルニア州をベースに仕事をするのであれば当然カリフォルニア州資格を取得すべきです。但し、いずれにせよ必要単位や条件に注意しないと受験資格が認められませんのでロースクールLL.M.コースの選択の際に必要単位や条件を満たすのか州の規則の確認が必要です。

なお、米国のいくつかのロースクールでは、夏季に2週間程度で履修する米国法入門のサマープログラムを開いていますが、LL.M.とは別物です。LL.M.に入学する前に準備のためにこうしたコースをとる日本人学生もいますが、学費もかかり、LL.M.のロースクールと離れていれば移動や滞在費用もかかります。いずれにしてもロースクールで一挙にこうしたサマープログラムの内容は学ぶことになりますし、履歴の点からもあまりプラスにはならないでしょう。

どのロースクールを選択すべきか?

一時期日本ブームであったころ有力な米国ロースクールでは日本法プログラムができ積極的に日本の弁護士事務所、企業や官庁からの留学生を受け入れて来ました。歴史的にこうしたロースクールのLL.M.コースは日本人留学生を現在でも受け入れています。勿論、そのほかのロースクールのLL.M.でも受け入れてくれるとは思いますが、実績のあるロースクールの方が日本人の受け入れに慣れていて勉学がし易いと思います。
米国では全米法曹協会(American Bar Association、”ABA”)の認証を受けたロースクールは203校ありますが、その質についてABAはランク付けしていません。
一般には以下のロースクールがTop 10の有力校とされています。

1. Yale University
2. Harvard University
3. Stanford University
4. Columbia University
5. University of Chicago
6. New York University
7. University of Pennsylvania
8. University of Virginia
9. University of California -Berkeley
10. Duke University

全米ロースクールの詳細なランキングについては、以下のU.S. Newsが毎年出しているランキングを参照してください。

►U.S.News”Best Law Schools Ranked in 2014″

但し、このロースクール評価については疑問視する意見もありますが、概ね、米国内の一般の評価に近いでしょう。もちろんこの評価は、J.D.コースのものであり、LL.M. コースとは必ずしも同じではありません。ただ、一般に全米で評価の高いロースクールは教授陣の人材や施設が整っているところが多く、また、人的ネットワークにも優れたところがあり、この評価はLL.M.選択に依然参考になります。また、将来の就職や転職の際、LL.M.であってもいわゆる有名ロースクール卒業の方が有利に働くことは多いにありえます(LL.M. がJ.D.コースに入学するより容易なことは、一般の人は知りませんし、ロースクールの名前で判断します)。 なお、米国は広大な国なので東海岸、西海岸、中西部などの地域で環境や文化が大きく異なりロースクールの雰囲気も随分違ってきますので自分の嗜好、性格もよく考えるべきです。

以下は、4大事務所の弁護士の海外留学先とパートナーの海外留学経験割合です。

1.海外留学経験者割合(パートナーとアソシエイト)

4大事務所別の留学経験者所属弁護士数割合

(内)パートナー

(内)アソシエイト

4大事務所の留学経験割合
※4大事務所所属弁護士の約半数近い弁護士が、海外留学を経験しており、パートナーに至っては、総数の約80%が海外留学経験者である。4大事務所でパートナーになるには、海外留学経験が重要なようである。

2.国別留学先

留学先国
※海外留学先の国としては、米国が圧倒的に多い。

3.ロースクール別

留学先学校別人数
※4大事務所所属弁護士の留学先は、ハーバード大学とコロンビア大学が圧倒的に多いのが特徴的である。

先述の4大事務所とは別として、これまで日本人実務家の留学生を比較的多数受け入れてきた主なロースクールは以下のとおりです。

Harvard University, New York University, Colombia University, Cornel Law School
Georgetown University, University of Pennsylvania, Washington University in St. Louis
University of Michigan-Ann Arbor, University of Washington, University of California-Berkley, University of Southern California 等

いずれにせよ、どこのロースクールもホームページが充実していますので、LL.M. プログラムに限らず、ロースクール全体のカリキュラムや教授陣を調べること(将来の自身の実務のためにはLL.M.プログラムに含まれる科目以外にも独禁法、証券取引法、知財法、環境法など米国ロースクール生が2年次、3年次に取得するような専門科目も取得すると良いであろう)、大学の環境や近隣住環境(特に、家族帯同の場合には治安や教育環境などは重要なポイントとなります)、学費条件など総合的に各ロースクールを比較検討することが大切です。

米国ロースクールへの入学手続き:願書の準備・提出

LL.M.への入学は、それぞれのロースクールで異なりますが、法科大学院の成績(できるだけGPAの高いことが望ましい)、TOEFL(できるだけ得点が高いことが望ましいし、高い語学力は入学後の勉強に必須です)、推薦状(できるだけ米国で名前の知れている組織や機関に属する人からが望ましい)、履歴書(職歴や社会活動など印象的な内容が望ましい)などが要求されるだけで何が基準で合格するか明確な基準ははっきりしません。米国では結構コネがききますので、出身母体の組織と当該ロースクールとに寄付金を出しているなどの関係があるとか、知り合いであるとかの人的関係とかがものを言うことがあります。

ただし、こういうコネがみつからなくても米国は実力さえあれば評価しますので、それほど悲観する必要はありません。いずれにせよ出願書類の内容については十分吟味することが大切です。通常は9月の秋学期から春5月の秋学期終了までですが、願書は前年の秋早々から志望のロースクールに提出しなければなりません。いわゆる人気校には志願者が殺到しますので、内容の良い志願者から合格通知が出ます。その時点で合格判定がでないとwaiting listにのり合格を待たなければならないので複数願書を出して合格を確実なものにする必要があります。ゆっくりしていると合格枠がうまってしまいますので、早め早めの動きが必要で、TOEFL受験や推薦状の手配など予定の1年以上前から動いて準備しなければなりません。

米国ロースクールに行くのにどの位費用がかかるのか?

LL.M.を取得し、ニューヨーク州かカリフォルニア州で弁護士資格を取得するのには相当なコストがかかります。勿論、入学するロースクールで学費や場所の違いによる生活費も変わってきます。しかし、概ね、ロースクールの学費は5万ドル前後(JDの3年コースに行く場合の年間授業料と大差ない)で生活費が約2万ドル(住む場所で変わります)、州司法試験の受験費用、往復旅費、引っ越し、保険などその他諸費用(2万ドル近く)がかかることになります。家族帯同であれば、さらに費用が膨らみます。
参考までにHarvardの参考例は以下の通りですが、他のロースクールでも費用は似たりよったりというところです。多くのロースクールが費用概算を示してくれています。

►Harvard Law School 「Financing LL.M. Study at Harvard Law School」

米国ロースクールへの日本人留学生の多くは、大手法律事務所や大手企業、裁判所、検察庁や中央省庁からの派遣で、派遣元から経済的な支援を受けているのが実情です。派遣元で数年の実務経験をしたのち、同期の中から選抜され海外留学をすることになります。一部の法律事務所の海外留学派遣では退職金代わりの片道切符ということもあるようですが、海外留学後、その派遣元で相当期間働くことを事実上(法的にはともかく)コミットすることになります。

事務所、企業や官公庁などからの派遣で留学する場合はいいのですが、自己負担で留学するとなると、授業料や滞在費のほか、留学中の収入がなくなるので相当な資金的手当ての準備が必要です。その額は前述のように日本の大学院と比べ物になりなせん。しかし、資本原理の貫徹している米国社会では、投資に見合う見返りが、将来あるということでこうした高額な授業料の設定になっていることも事実です。従って、これだけの金額を自己投資するわけですから将来のキャリアプランニングをしっかり立てて留学する必要があります。

州(例:ニューヨーク州)の司法試験受験について

LL.M.を終え必要要件を満たせば、ニューヨーク州やカリフォルニア州で州の司法試験を受験できることになります。ただ、通常の日本人の留学生は1年間で受験まで終えなければなりませんので、春学期が終わってもゆっくりしている暇はありません。ニューヨーク州は司法試験(bar examination)が夏と冬の2回あり、通常ロースクール卒業生は卒業後の夏に受験し実務を始めます。米国の司法試験は資格試験でありロースクール在学中に試験勉強はしません。有名ロースクール卒業生であれば、ほとんど全員が合格しますので皆割に呑気にしています。

ただし、ロースクール在学中には試験対象になる州法については全く勉強しないので、州の司法試験受験のためにやはり専門の予備校(有名なBARBRI)に事前に約2か月通わなければなりません。そのため直前には皆真剣になっています。有名ロースクール卒業生であればほぼ全員受かるのですが、就職がすでにきまっているので精神的プレッシャー(半ば冗談で)になります。また、Bar Examinationの合否は重要ですが、資格試験なので就職で我が国のように成績順位は全く問題にされませんから受験生は気楽にしています。

受験資格や手続については、ロースクール留学先決定前やロースクール在学中にそれぞれ確認されると思いますので詳述はしませんが、例えば、ニューヨーク州の規則は、以下をご覧ください。特に外国人LL.M.取得者の受験資格には注意が必要です。

►The New York State Board of Law Examiners

ちなみにニューヨーク州の司法試験の過去の合格率は以下の通りです。外国資格で受験するものの合格率は低いですが、日本人は筆記試験慣れしているので、実証したことはありませんが、この合格率より相当高いと思います(有名ロースクールのLL.M.卒業生は一回受験で殆ど合格しているようです)。なお、注意しなければならないのは、米国では実務経験の伴わない資格は全く評価されません。米国では法曹資格は必ずしも職を保証しません。どこのロースクールをどの位の成績で卒業したかが、就職活動では重視され、初任給にも反映されるのです。

日本人は、長年国内の資格制度に慣れ親しんできたせいか資格を重視しすぎで、米国の事情を理解する必要があります。従い、法曹資格を得たからと言って実力が評価されない限り、日本人が米国内で他のアメリカ人と競争して現地法律事務所に正式に就職するのには相当な努力と困難を伴います。もっとも、中国、韓国、インド、中南米などからのロースクール留学生は、日本人留学生と異なり、本国に帰らず米国で弁護士として勝負するケースが多いようです。

多くの日本人の米国ロースクール留学生は法曹資格取得後、派遣元の関係先の法律事務所などで半年から1年間、実務研修を受けています。どこで実務研修を受けたかは履歴書に書かれるので、できるだけ有名な事務所で研修を積むようにしたらいいでしょう。

米国法曹資格の価値は、資格自体ではなく、出身ロースクールと有名法律事務所などでの職歴によります。このあたりは、日本と異なるのでよく理解する必要があります。米国CPAと同じように米国法曹資格取得を考えることは間違いでしょう。米国留学で将来価値があるのは、米国の法曹資格でなく、ロースクール留学中に、現地で生活し、米国社会を理解すること、同窓のロースクール生や教授たちとの交流や留学生間のネットワーク形成かもしれません。

►New York Bar Exam. “Pass Rate 2008-2013”

Bar Examination受験前には通常米国のロースクール生は試験予備校のプログラムを2か月程度受け、準備をします。試験予備校は複数あり、どこがいいのかは、日本人より情報量の多い自身のロースクールの学生に聞くのが一番だと思います。下記のウェブサイトで情報収集すると良いでしょう。

►KAPLAN
►BAR BRI

ちなみに、前述の司法試験予備校の大手BARBRIというところが親切にも外国資格で受験するLL.M.生のためにニューヨーク州の司法試験の内容とか手続きにつきビデオでわかりやすく解説しており、また、最新の情報でもあり、全般の情報入手に役に立つでしょう。

 

米国ロースクール留学に役立つリンク

米国では法律関係の情報がウェブ上で多量に公開されており検索により入手が極めて容易です。前出の「ロースクール留学ガイド」でいくつか紹介しましたが、参考にできるリンクをいくつか追加で紹介します。

►連邦最高裁判所ウェブサイト
►連邦最高裁の1955年以来の最終口頭弁論の音声録音アーカイヴ
►連邦最高裁の判決をフォローし続けているブログ
►司法省ウェブサイト
►ABOVE THE LAW(業界ブログ)
►THE AMERICAN LAWYER ウェブサイト
►THE NATIONAL LAW JOURNAL ウェブサイト
►the National Jurist(法科大学院生向け雑誌)ウェブサイト
►米国弁護士会ウェブサイト

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